新しい歯ブラシ
『Michiyo8』・『Michiyo4』
歯科衛生士の考案した歯ブラシ
歯にフィット・手にしっくりの設計!
まずは、一度お試しください
平成7年11月25日 歯科衛生士国際シンポジウム(東京/英語)
平成8年3月20日 人間工学会(新潟/日本語)
発表者:恵比須美知代
歯周病には、歯頚部のプラークが大きく関与し、現在、種々の磨き方が指導されています。
「ME法」は、歯頚部特に歯間部プラークを有効に取り除くために、新しく考案した永久歯のための歯磨き方法です。
ME法の基本パターンは、一般成人の日常的な歯磨き方法として、公衆衛生の場で活用できます。
また、その基本を応用することにより、臨床の場における個々の患者さんの口腔内の、あらゆる歯列の状態に対応できるものです。
ME法では、(一般的な永久歯列での)プラーク除去の効果が確実なため、プラーク残存に関与するブラッシング方法以外の要素も、明確に抽出できます。
従来の方法と、ME法による歯磨き後のプラーク残存状況を比較・評価した結果、「左右差」という要素が明確になりました。
今回、その対応について、作業仮説を立て検討したので報告します。
まず、ME法の概要について説明します。
歯列における歯頚部を模式的に考えた場合、すべての歯間部において三角錐が存在すると考えました。
左写真のように、三角錐は歯間乳頭の1面、隣接する両歯牙の2面で構成されます。
色調の関係で、歯間乳頭部分に緑を使用しています。
このような三角錐を、「閉じた三角錐」と表現しています。
右写真は、前歯唇側および臼歯の頬側面観です。
左写真は、上顎前歯部口蓋側です。この歯間部も「閉じた三角錐」が存在しています。
右写真は、臼歯舌側です。
三角錐が歯牙からはみ出すように存在しています。他の部位と異なり、特徴的です。
これを、「開いた三角錐」と表現しています。
左右図は、歯間部への歯ブラシの当て方の原則を示しています。
歯肉の赤い部分、模型では緑を用いていました。
乳頭歯肉の赤い部分には、歯ブラシの脇腹。
黄色と青色の、両方の歯牙面には毛先が当たるように用います。
では模型上で基本パターンを紹介します。
「閉じた三角錐」の磨き方として、下顎前歯部に歯ブラシを当てているところです。
左から右に連続動作の後小刻みに動かします。
まず、左写真のように、毛先を切端方向に向け、歯頚部45度の角度で当てます。
右写真のように、脇腹で歯肉を圧迫し振動します。(歯ブラシを少し起こすようにしながら、毛先付近の脇腹を押し当てるようにします。)
もし、歯と歯の間に、歯ブラシの毛先が入ってい行くような感じがしたら、逆らわないで毛先の方向へ運動させます。(歯と歯の間に入りこむ感じです。)
このように用いることにより、「閉じた三角錐」では、毛先が確実に歯間部に入り込み、かつ歯肉(辺縁歯肉や乳頭歯肉)への過剰な刺激を避けることができます。
上下の前歯舌側も「閉じた三角錐」と認識してブラシを用います。(当初は上下であったが、上顎前歯部口蓋側のみに修正)
左写真のように、歯ブラシは立てて挿入し、右写真のように、歯ブラシの先の(毛先寄りの)脇腹部分を、歯肉に押し当てるようにし、同様に磨いていきます。
それに対して、「開いた三角錐」すなわち、臼歯舌側では、近心面と遠心面はそれぞれ独立した面として存在しているため、毛先を(直接、直角に)当てることが容易です。このように、別々に磨く方が効率的です。
ここでは、近心面、遠心面の方向を認識することが重要です。
左右写真のように、2面を磨き分けることが、合理的です。
左写真は近心面です。直接毛先を当てて(上下に)往復運動します。
右写真は遠心面です。直接毛先を当てて、往復運動します。(搔き出す要領で、または引っ掻けるように動かすと効果的です。)
2方向を磨き分けるためには、歯ブラシの挿入方向が大きく異なることが、重要な要素です。
左写真のように、近心はブラシの毛先をのどの方に向けて、立てるような感じで上下に往復運動します。
右写真のように、遠心は歯ブラシを寝かせるようにして、(先端の毛先)で1歯づつかき出すように動かします。
面倒なように思えますが、近心から4567と順次磨き、遠心を7654と磨いてくれば、一連の流れができます。
上下左右同様に行います。
左写真の黄色の部分は、頬側における最後臼歯の遠心面です。
右写真のように、横からの突っ込み磨きを行います。
(最後臼歯の保護の観点から、重要な部位です。)
左図のように、ME法では、歯ブラシの大きさと形態は、歯牙を基準にしています。
右写真に示す、形態と植毛配列のものを基準としています。
大きさは、口腔内に存在する下顎第一大臼歯の計測値を基に、長さ14~15ミリ、幅9ミリ、毛の長さ10ミリです。
(ME法では、歯ブラシは何を使ってもよいが、最も効果がえられるようにME歯ブラシを設計しています。)
平成5年の1月30日、日本人間工学会歯科部会で詳細を報告しました。(1992年度)
次に、ME法の効果についてご紹介します。
左写真は、ME法により歯肉へのマイルドな作用を示した1例です。
上は、ME法指導前の上顎右側の頬側です。
第二小臼歯部にクレフト、犬歯部に擦過傷が見られます。
下は、ME法を指導して6週間後の歯肉です。
クレフト、擦過傷が消失しています。
唇側、頬側では、歯ブラシの毛先の方向を配慮することにより、歯間部プラークの除去と同時に、突出した辺縁歯肉への毛先による過剰な刺激が避けられます。
右写真は、歯間空隙のある歯列の改善例です。
歯頚部歯肉が引き締まっており、また、口臭が消失しました。
歯間ブラシ、フロスなど補助用具は使用していません。
(口臭対策で仁丹を噛んでいたが、やめたとのこと。)
左写真は、臼歯舌側における、2方向磨き分けの効果について示した一例です。
上は、ME法指導して、2週間後の状態です。
歯磨き動作の観察では、近心磨き動作はできており、かつ近心面プラークは付着していない状態でした。
しかし、遠心磨き動作はみられず、当然の結果として遠心部のプラークが残っている状態でした。
下は、再指導して、4週間後の状態です。
近心面、遠心面ともに歯間部プラークすべてが除去されていました。
歯磨き動作の観察においても、近心磨き、遠心磨きの2方向磨き分けがなされていました。
このように、最もプラークが残りやすいとされていた臼歯舌側は、容易に清掃が可能です。
右写真は、矯正患者の染色した口腔内です。
ME法では、頬側における装置に影響されることなくプラーク除去が効果的に行えます。
ME法を体験した人たちは、「短時間で確実にプラーク除去ができる」、「磨いたあとの爽快感が長く持続する」という感想です。
以上、ME法の概要とその効果について紹介しました。
左写真は、患者指導用のME法用模型、歯ブラシを示しています。
右写真は、ME法を絵によって解説した、患者指導用チャートです。
歯ブラシを持つ手や挿入方向、腕の位置や動作、すなわち歯磨き動作についても、具体的かつ視覚的に示しています。
今回、ME法での右手磨きによるプラーク除去に左右差が認められました。
左右図は右手磨きの同一集団に置ける歯磨き後の、臼歯部プラーク残存率をグラフで縦軸に示しています。
横軸は部位を示しています。
それぞれ黄色が頬側、青が舌側・口蓋側です。
左図は、従来の歯磨き方法による結果です。
いづれの部位も、青い舌側・口蓋側が有意に高く、左右に有意差は見られません。
右図は、ME法による歯磨きの結果です。
ME法では、いづれの部位も有意に著しく減少しています。
各部位では、右側では舌側、左側では頬側が高い傾向です
左右差が見られます。
左図にあるように、従来の歯磨き方法では、プラークが十分除去されないため、左右差が明確にならないのです。
右手磨きの場合、左右対称な歯列に対し、歯磨き動作は右寄りの偏った作業位置から始まります。
左右図は、歯磨き動作の作業仮説を示したものです。
左図は、右手および左手で操作しやすい(到達しやすい)歯列上の部位です。
右手は、正中から右口角にかけて位置しています。
右側頬側および左側舌側に到達しやすい。
これを「右手ポジション」と定義しました。
左手は、正中から左口角にかけて位置します。
左側頬側および右側舌側に到達しやすい。
これを「左手ポジション」と定義しました。
左右差はこのようにして、現れると考えました。
そのため、右手のみでの歯磨き動作では、「左手ポジション」に右手を移動させることが必要です。
右図は、右手による歯磨き動作と腕の運動域を示したものです。
図⑴のように、「右手ポジション」では、右肘は、右胸に位置しています。
右手を「左手ポジション」に近づけるためには、単に手の部分を左に寄せただけでは、歯列より遠くなり、不十分です。
図⑵のように、右肘を正中寄りに(体の中央近く)に移動させることにより、右手による「左手ポジション」を得ることができます。
しかしながら右手が左手ポジションに移動しても、それだけでは十分ではありません。
左右差を解消するためには、右手を左手ポジションに移動しただけでは、十分な結果が得られません。
左右図は、左右差を解消するための対応について示しています。
左図は、右手磨きの患者さんへの、右側舌側、左側頬側における、具体的な指導内容です。
右手を左手ポジションに近づけるためには
図(A)のように、
⑴右ひじを意識して左へ移動します。右肩も同様に動かすと容易です。
⑵顔を右に向けます。
図(B)のように、
⑶左手で磨く。
これは意外と見落としがちな指導ポイントです。
右図は、歯磨き動作において生ずる左右差を、解消するための要素です。
⑴肩の運動・肘の移動
⑵首振り
⑶両手磨き
この3要素を、個々の患者さんの必要度と能力にあわせて、組み合わせるのが、効果的です。
これらの要素は、考案当初からすでにME法の指導では組み込まれており、指導用チャートにおいても提示しています。
今回、作業仮説を立てて検討することにより、その根拠が明確になりました。
私たち歯科衛生士は、歯科における専門家として「歯磨き動作は全身運動である」ことを認識し、
まずは、自分自身の歯磨き動作、そして患者さんの歯磨き動作についてもよく観察する姿勢を持つようにしましょう。
そして、ぜひ、プラーク除去に効果的なME法を実践していただき、
「個別の問題点を抽出した、根拠のある専門的な指導」で、長期にわたる患者さんとの付き合いに生かしていただきたいと考えています。