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『歯頸部・歯間部のプラークを有効に取り除くために、新しく、考案したブラッシング方法(ME法)について』 -第五報-

ME法は、一般的な永久歯列の歯間部プラーク除去に有効な方法として考案し、その効果については第2回から第4回の本会(*1)において報告しました。

(*1)日本口腔衛生学会 近畿・中国・四国地方会

(補足)日本歯科衛生士会学術大会は第25回から26回

ME法に使用したME歯ブラシを、平成2年の考案以来、観察をつづけた結果、歯間部形態によって、刷毛部の形態に異なる変化が見られましたので報告いたします。

目次

ME法は歯間部が三角錐と想定

部位により形状が異なる

くぼんだ三角錐open

左写真

開いた三角錐close

右写真

ME法概要

ME法は、歯間部が三角錐の形態であるという想定のもとに、歯肉にやさしく、歯間部歯面に毛先が到達するように考案し、各部位ごとに具体的な歯ブラシの操作方法を提示したものです。

左写真のように、くぼんだ三角錐が存在する、唇側頬側および前歯部口蓋側では、刷毛部の脇腹を歯肉に押し当て、毛先を歯間部に導きます。

右写真のように、臼歯舌側部では、歯間部が開いており近心と遠心それぞれ別に歯ブラシの挿入方向をかえることにより、毛先が直接隣接歯牙にあたり、歯間部への挿入が簡単にできます。

いづれも、歯間部に毛先が挿入できれば、小刻みな往復運動を行います。

ME法で良好な経過 歯ブラシのみ使用

4ヶ月経過の例

左写真

2年経過の例

右写真

ME法によるブラッシング効果

左写真は、昨年報告した患者の臼歯舌側部の4か月後で、良好な経過です。

ME法が定着しており、本人の報告では、ブラッシング時間が短縮し、一本一本確認しながら磨ける。何より、ブラッシング後の爽快感がよい、ということです。

右写真は、歯間空隙のある歯列です。

歯間ブラシは使わず、平成2年の考案以来、ME歯ブラシのみで歯肉が改善され、良好な状態を維持しています。

(今回は、平成2年以来、この方の使用した、ME歯ブラシを観察しました。)

過不足のない歯ブラシの大きさと形態

第一大臼歯が基準

左図

長方形

右写真

ME歯ブラシ

ME法で使用するME歯ブラシの大きさと形態は、歯を基準にしています。

左図は、下顎第一大臼歯をもとに割り出したME歯ブラシの大きさです。

右写真に示すように、幅4列、長径5段、毛の長さ10ミリのものを使用しています。

ME法においては、歯間部の深さは一般的には3ミリ、空隙のある場合でも毛先が5ミリ入ればその中央部に到達すると考えています。

以上がME法およびME歯ブラシの概要とその効果です。

ME法で歯みがき後の刷毛部の変化(1)

空隙のない歯列

左写真

空隙のある歯列

右写真

使用後歯ブラシ複数比較

今回、歯間に空隙のない歯列として、考案者である恵比須の使用したME歯ブラシ、

歯冠に空隙のある歯列の症例として、先ほどの症例の方の使用したME歯ブラシ。

それぞれ、4ヵ年の歯ブラシの刷毛部の変化を観察し、比較検討しました。

左写真は、空隙のない歯列に使用した歯ブラシの、頭部からの状態です。

右写真は、空隙のある歯列に使用した歯ブラシの、頭部からの状態です。

左右写真を比べてみると、歯間部の深さによって刷毛部の形態変化に特徴があることが認められます。

ME法で歯みがき後の刷毛部の変化 (2)

空隙のない歯列
毛先1/3に広がり

左写真

空隙のある歯列
中央部にふくらみ

右写真

歯ブラシ頭部比較

左写真は、“空隙がなし”のME歯ブラシです。⑴

根元から中央にかけては、ほぼ変化がなく立ち上がった状態であり、毛先1/3付近から外に広がりが見られます。⑵

右写真、“空隙がありの”ME歯ブラシです。⑶

根元部分は外側にふくれるように立ち上がっており、中央部から毛先になだらかに移行しています。

毛先は内側に戻る部分と、S状に外側にはねる部分があります。⑷

明らかに、刷毛部の形態が異なります。

ME法で歯みがき後の刷毛部の変化 (3)

空隙のない歯列
台形

左写真

空隙のある歯列
台形

右写真

歯ブラシ側面比較

左右写真は側面から観察したものです。

左写真は、“空隙なし”の側面観です。

毛先から1/3付近に変化があり、外側に反り返っているのが見られます。

右写真は、“空隙あり”で、根元付近から変化が見られます。 しかし、全体的な外形は台形であり、同様の形と考えられます。

ME法における刷毛部の機能と形態変化

側面(長径側面観)

左図

頭部(幅径側面観)

右図

刷毛部の機能

このような、客観的な変化が見られましたので、ME法における刷毛部の機能と形態変化についての仮説を立て、実際の計測数値とともに検討しました。

左右図は、刷毛部を示しています。

ME法では、毛先を作業面、歯間部に入り込む部分を運動域、支点をはさんで土台があり、根元の部分で力を受けると考えています。

支点は歯間部の深さにより変化します。

左図は、刷毛部の側面です。

運動の方向は、歯ブラシの長軸に往復運動のみです。

毛の広がりは、運動量が大きく、支点が根元に近くなるほど広がります。

右図は、刷毛部の頭部からの面です。

毛先を歯間部に入れ込むために、毛先と運動域は、支点を中心に左右の振幅運動がおこり、根元と支点の二か所に力を受けると考えられます。

ME法の特徴的な刷毛部の用い方が、この面に表現されます。

*補足*この図の説明では、歯ブラシの毛先・刷毛部の変化について、感覚的な表現をしており、今後、材料力学による的確な表現ができるように、学習し、訂正していきたいと考えています。

ME法における刷毛部の形態変化と広がり指標

左図
右図

広がり指標仮説

左右図は、ME法で刷毛部の頭部側面に起こりうる形態変化と広がり指標をあらわしています。

左図は、空隙のない歯間部の深さ3ミリにME歯ブラシを使用した場合です。

形態は左のようであり、その程度は右に示すように、

①毛先から3ミリの部分が支点となり、そこに変化が起こる。

②毛先は左右に1.5ミリの振幅をするが、支点が毛先寄りにあるため、中央部は0.75ミリより大きくならない。

③毛先の広がりは、中央部の広がりの2倍より大きく、毛先にいくほど反るようにひろがる。

④しかし毛先の広がりは2.25ミリ程度で3ミリには達しない。

右図は、空隙のある歯間部の深さ5ミリにME歯ブラシを使用した場合です。

形態は左のようであり、その程度は右に示すように、

①毛先から5ミリの部分、つまり中央部に変化がおこる。

②毛先は左右に2.5ミリの振幅をするが、支点が中央部にあるため、中央部は1.25ミリより大きくなる。

③毛先の広がりは、中央部の広がりの2倍より小さく、中央からなだらかに毛先に移行する。

④中央部の広がりは1.8ミリまでで、毛先の広がりは3.75ミリより小さい。

*補足*この図の説明では、歯ブラシの毛先・刷毛部の変化について、感覚的な表現をしており、今後、材料力学による的確な表現ができるように、学習し、訂正していきたいと考えています。

ME法における刷毛部の形態変化

測定値と広がり指標

歯間空隙なし

左図

歯間空隙あり

右図

使用後歯ブラシと広がり指標

左右図は、ME法を行った、空隙のない歯列と、空隙のある歯列の、使用後歯ブラシの測定結果と広がり指標です。

左図は、空隙のない場合です。

左の表は、歯ブラシの中央部、毛先の広がり2か所の計測値です。

平成4年の例をとりますと、中央部0.4ミリ、毛先が1.5~2.9ミリと、指標に符合しています。

ほかの年も同様です。

右図は、空隙ありの場合です。

平成4年の例をとりますと、中央部1.3ミリ、毛先が1.8~3.3ミリ、となっており、指標と符合します。

しかし、平成5年ころには、辺縁歯肉からの出血が見られるようになり、毛先が歯間部に入り込んでいないと思われるようになりました。

刷毛部の形態も肉眼的に違う広がり方だと思われました。

計測値は、中央部0.9ミリ、毛先が3.2~4.1ミリ、と指標と比較することにより、明確な違いが指摘できました。

ME法で歯みがき後の刷毛部の変化

空隙のない歯列

左写真

空隙のある歯列

右写真

まとめ

左写真は、ME法で一般的な歯間部に毛先が到達した場合の変化です。

根元から中央部にかけては、ほぼ変化がなく立ち上がった状態であり、毛先1/3付近から外に広がりがみられます。

右写真は、ME法で空隙のある歯間部に毛先が到達した場合の変化です。

根元部分は外側にふくれるように立ち上がっており、中央部から毛先にかけてはなだらかに移行しています。

毛先は内側に戻る部分と、S状に外側にはねる部分があります。

ME法は、歯牙形態をもとに考案され、毛先が歯間部に十分到達するように考えられています。

また、歯牙の大きさをもとにしたME歯ブラシは、刷毛部の各部位における機能や、力の作用する位置と方向が明確です。

そのため、今回、刷毛部の形態変化を数値による指標としあらわしました。

実際に使用したME歯ブラシの形態変化と計測数値が、仮説により得られた形態変化と数値に符合しており、歯ブラシ観察において指標になりうることが示唆されました。

こうしたME法における特徴的な刷毛部の形態変化の観察は、患者の習得度を推測したり、患者自身への指導内容としても活用できうるとかんがえます。

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